2026 年9月24日
“障害者雇用ありき”ではなく、“何のために雇うか”から。
袋井みつかわ病院が進めた、介護補助の仕事づくり
法人プロフィール
法人名:医療法人社団八洲会
施設名:介護医療院 袋井みつかわ病院(介護医療院)
従業員数:約200名(対象範囲・基準日 要確認)

【ご協力】 事務長 柿本様/看護部長 萩里様/介護主任 岩本様
【聞き手】 株式会社クラ・ゼミ障がい者雇用サポート事業部 河合・菅沼
介護人材の確保が難しくなる中、袋井みつかわ病院では、介護職員が担っていた間接業務を整理し、介護補助の仕事として切り出しました。そこに障害者雇用という選択肢が重なり、3日間の職場体験を経てAさんをトライアル雇用(6か月)として採用。入社後は、想定どおりに進まない業務を一つずつ見直し、本人が取り組みやすい一日の流れをつくってきました。半年後、トライアル雇用から継続。更新の決め手は、現場からの『いてくれて助かる』という声でした。雇用開始から継続を決めるまでの過程を、柿本事務長、萩里看護部長、岩本介護主任に伺いました。
「障害者雇用をしなければ、ではなく、まずは目的。その目的と本人の特性が合うことが、雇用の継続につながります」
事務長 柿本様
介護職の人手不足を、業務の見直しから考えた
袋井みつかわ病院が取り組みを始めた出発点は、障害者雇用の人数確保ではありませんでした。介護職の採用が難しくなり、患者さんのケアを担う職員の負担も増える中で、限られた人員で医療・介護の質を保つことが課題になっていました。
療養型の病院施設では、認知症や介護度の高い患者さんも多く、直接介助にはコミュニケーション力や状況判断が求められます。患者さんの状態に応じて臨機応変に動けるようになるまでには、相応の経験と時間が必要です。
そこで当院は、取材のおよそ2年前、令和6年度の介護報酬改定きっかけに生産性向上委員会を立ち上げ、直接介助と、それ以外の業務を整理しました。シーツ交換、ゴミ出し、環境整備など、時間や手順を定めやすい仕事を切り分け、集中的に担う人を配置できれば、介護職員は患者さんのケアにより多くの時間を使えます。人手不足への対応を、単なる採用数の確保ではなく、仕事の組み立て直しから考えたのです。
切り出した仕事と、働く人の特性が合うか
介護補助の担い手として、当初は非常勤職員や定年退職後の人なども想定していました。しかし、必要な時間帯や働き方に合う人を採用することは容易ではありません。ちょうどその時期に、クラ・ゼミの菅沼から障害者雇用という選択肢が提案されました。
病院側が重視したのは、『障害のある人を受け入れられるか』という抽象的な問いではなく、切り出した仕事と応募者の特性が合うかどうかでした。ゴミを種類ごとに分けられるか、決められたルートで運べるか、荷物を安全に扱えるか。具体的な仕事に照らして考えることで、採用の可否を現場と共有しやすくなりました。
萩里看護部長は、外国人職員を含め、すでに多様な背景を持つ人が働いていることも、現場が過度に身構えなかった理由の一つかもしれないと話します。違いそのものではなく、仕事との相性を見る。それが当院の受け入れの土台でした。

3日間の職場体験が、採用判断の土台になった
障害者雇用の採用手順に詳しかったわけではない同院に対し、クラ・ゼミは、面接の前に職場体験を行うことを提案しました。候補者本人の特性にも配慮し、3日間、実際の病棟で間接業務を経験してもらいました。
体験中は、できる仕事と課題の残る仕事を現場で確認しました。別の候補者には営繕業務を体験してもらいましたが、仕事とのマッチングに至りませんでした。二人目のAさんについては、課題はありながらも介護補助として受け入れられると判断し、面接を経て採用しました。
柿本事務長は、実習を通して『これならできる』『ここは工夫が必要』と判断できたことを、採用につながった大きなポイントとして挙げます。求人票と面接だけで結論を出さず、本人と職場の双方が仕事を確かめる時間を持つことで、採用後の見通しを具体化できました。

採用後に、仕事を何度もつくり直した
入社後は、あらかじめ決めた仕事をそのまま続ければよいわけではありませんでした。想定より時間がかかる業務や、注意しても改善が難しい業務も見つかりました。岩本介護主任は、日中に関わったスタッフから様子を聞き、『この仕事は苦手そうだ』と分かれば、一日の流れを組み直しました。
できないことを本人の努力不足だけで捉えず、その業務を外す、順番を変える、別の仕事へ置き換える。こうした試行錯誤を重ね、現在は、Aさんが一人で進められる業務の流れができています。入社当初に比べ、一つひとつ確認しなくても仕事が進む状態になりました。 岩本主任は、今すぐ新しい仕事を増やすより、まず現在の業務を確実に続け、そのうえで速度や担当範囲を検討したいと考えています。任せる仕事を広げることだけを成長とせず、安定して遂行できる流れを定着させることを優先しています。
分からない行動を、そのまま本人への評価にしない
同院の病棟には、経験を積んだ職員が多く、仕事を速く正確に進めることが当たり前になっています。そのため、Aさんが一つの作業に長い時間をかける姿は、当初、周囲の目につきました。
そこで、支援機関へ相談し、実際の作業場面も見てもらいながら、Aさんの行動の背景について助言いただき、それを現場へ説明してもらいました。
背景が分かると、同じ行動でも見え方が変わります。岩本主任は、職員へ伝えたことで、『そういうことだったのか』と理解が進み、Aさんを見る目も変わったと振り返ります。配慮とは、仕事上の基準をなくすことではありません。必要な注意は伝えながら、本人が難しい部分については、やり方や仕事の組み合わせを調整することです。

『今日はいないんだ』。不在の時に見えた役割
トライアル雇用中は、周りにとっても、Aさんにとっても様々な思いや苦労があり、続けていけるかどうか迷う時期もあったと思います。
転機になったのは、Aさんが体調を崩し、一定期間休んだ時でした。Aさんが担当していた仕事を、もともと担っていた職員が再び行うことになり、現場から『今日はいないの?』『いてくれて助かっていた。』『いてもらわないと困る。』という声がいろんなところから上がりました。
不在になったことで、Aさんが日々引き受けていた仕事の量と、職員の手が離れていた時間が見えるようになりました。このきっかけを経て、トライアル雇用からの継続となりました。
専任者一人ではなく、病棟全体で働く
Aさんには、常に付き添う専任の指導者はいません。岩本主任が中心となりながら、病棟スタッフ全体で様子を共有しています。一日の流れが定着した今は、Aさん自身が自分のペースで仕事を進め、必要な場面で報告します。
休憩もスタッフと同じ空間で取っています。会話が多くなくても、同じ場所で過ごすことで、お互いを少しずつ知ることができます。特別な場を別に設けるのではなく、日常の中で関係をつくることも、職場への定着を支えています。
『雇用の目的』と『仕事とのマッチング』から始める
柿本事務長は、障害者雇用を進める企業・法人に対し、法令上の必要性だけを出発点にせず、『何のために雇用するのか』を明確にすることが大切だと話します。その目的に合う仕事を整理し、本人の能力や特性と結びつけることが、継続雇用につながるからです。
岩本主任も、仕事の流れができるまでは大変でも、一度できるようになれば必要な存在になると実感しています。萩里看護部長は、働くことが本人の生活基盤と自立につながる一方、雇用する側にとっても、必要な仕事と本人の力が合うことが重要だと語ります。
介護人材の不足は、短期間で解消できる課題ではありません。だからこそ同院は、従来の『一人で幅広い仕事を担う職員』だけを探すのではなく、業務を細分化し、それぞれの仕事を担える人を迎える方向へ進もうとしています。障害の有無で先に可能性を決めるのではなく、必要な仕事と、その人にできることの接点を探す。袋井みつかわ病院の取り組みは、人手不足への対応と障害者雇用を、同じ仕事づくりの中で考える実践です。

仕事を整理するところから、障害者雇用は始められる
袋井みつかわ病院も、最初から障害者雇用の完成形を持っていたわけではありません。介護職員の負担を減らすために仕事を整理し、職場体験で相性を確かめ、採用後も業務を組み直し、外部支援を活用しながら現場の理解を深めました。
『任せられる仕事が分からない』『受け入れ後の指導が不安だ』という段階でも、準備は始められます。クラ・ゼミ障がい者雇用サポート事業部では、企業・法人の課題を伺い、業務の整理、受け入れ準備、職場体験、人材とのマッチングまで、雇用の目的に沿った進め方を一緒に考えています。

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